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「グロテスク」桐野夏生

グロテスク〈上〉 (文春文庫)グロテスク〈下〉 (文春文庫)

グロテスク〈上、下〉 (文春文庫)

著者:桐野 夏生
販売元:文藝春秋
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オススメ度★★★★★

昔、夜の渋谷の街で女の人に声をかけられたことがある。深夜だったし友達とカラオケで朝まで過ごそうとしていた時だった。その時は怖さと気味悪さで小走りで逃げたのだった。おそらく声をかけてきた女の人は娼婦だったのだろう。あの人は今どうしてるんだろう。この本を読んでふと思い出した。

文庫本では上下巻に分かれているこの本は、主に4人の女と彼女達をとりまく男達を20年以上の月日にわたって描いている。恐ろしいほどの美貌を持ったユリコ、そして彼女の姉、天才的な学力を持つミツル、高校でいじめられていた和恵。娼婦をしていたユリコは殺され、その後同じく娼婦をしていた和恵も殺された。いったいなぜ二人は殺されたのか、そして残された者は何を思うのか。

これは東京電力のOL殺人事件という実話を元に書かれている。詳しくは知らないが、そのOLが昼は会社員で夜は娼婦をしていたということ。どうして彼女は娼婦をしていたのか、この本はその真意に迫って書かれているように感じた。

この話の序盤で特に目立つのはユリコの完璧なまでの美貌だ。姉は彼女に異常な恐怖を持ち怪物だと言い、和恵はその美貌に強くひかれストーカーまがいの行為をし、周囲の人間は驚きの目で彼女を見る。そして男達は彼女を欲する。そんなユリコは15歳にして自分が異常な性欲を持った人間だと知りいずれは娼婦へと続く道へと進んでいってしまう。その圧倒的な存在の前には誰もが小さくなってしまい、周りの人達をバラバラに引き裂いていく。

そんなユリコとは正反対の姉は自らの悪意を磨くことで高校から区役所でアルバイトの日々を送る中年女になるまで生き抜いてきた。そこには妹のユリコに対する大きな嫉妬が隠されていたのだろう。もし自分に手の届かないほどの完璧な兄弟がいたとしたら、嫉妬するだろうか。多分・・・多かれ少なかれしてしまうだろう。自分を比べてしまい、劣等感を感じ心に壁を作ってしまうかもしれない。ユリコの容姿は姉にとって圧倒的な嫉妬を生むほどの距離があったのだろう。ユリコが死んでも悲しまないほどだから相当だ。

彼女の恐ろしいまでの悪意、それは人を怪物に仕立て上げるが自分も怪物にしていってしまったのではないだろうか。彼女は否定するだろうが私はユリコもミツルも和恵も、そしてユリコの姉も怪物だと思う。でもラストは・・・それでいいの?って彼女に聞きたい。結局はそうなるのか、ってなんか残念だったな。

で、読んでて一番むなしいなって思ったのは和恵だ。高校の時からいじめられてた彼女は会社でも周りから見向きもされない。そんな彼女を壊していったのは、高校時代にユリコの姉に言われた「痩せると綺麗よ」の一言。人は誰かの忠告や説教だったり、言われたことすら忘れてしまってても無意識に意識してしまうことってあるのだろう。和恵が壊れていき周りから化け物のような目で見られていく様は読んでいて痛々しかった。

自分はもっと目立ちたい、ちやほやされたくて仕方ない。だから娼婦をやるんだ。私って娼婦なのよ、すごいでしょ?って。周りの人間に自分を見てほしくて仕方ない。安い金でも何でもする。相手はもう誰だっていい。でも、優しくしてほしい。なんかすごい寂しい人だ。

読んだあと、ため息が出た。人間の、濃いブラックな面を見た気がした。私は男だが、女の人が読んだらさらに大きなため息が出るだろうなと思う本だった。

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